住み慣れた住まいを、これからの暮らしに合わせて ― 回遊動線がもたらす、穏やかで機能的な暮らしへ
今回ご紹介するのは、築年数を重ねたマンションを、暮らしのリズムに合わせて再構築したフルリノベーション事例です。住み慣れた空間を土台に、これからの生活を見据えて、間取りを大きく見直すことから計画が始まりました。

最も大きなポイントは、玄関を起点にぐるりと一周できる回遊動線の採用です。既存の間取りは、各部屋が独立し、廊下や扉でつながる従来型の構成。閉塞感があり、生活導線にはいくつかの無駄が生じていました。そこで今回のリノベーションでは、壁や建具の一部を思い切って取り払い、動線の流れをシンプルに。玄関からリビング、寝室、水回り、そして収納スペースへと回遊できる構成に再編しました。

この変更により、空間同士のつながりが格段に向上。住まい全体を軽やかに回遊できることが、日常のささやかな動作をスムーズにし、精神的なゆとりをもたらします。動きが滑らかになることで、掃除や家事、身支度といったルーティンも効率化。自然と住まいに整いが生まれ、静かで気持ちの良い暮らしが実現します。

また、見た目のデザイン性よりも、機能性と使い勝手に重きを置いた計画としています。例えば、水回りへのアクセスを直線的にすることで、移動距離を最小限に。収納の配置も、動線上に無理なく組み込むことで、しまう・取り出すという行為が自然に行えるよう工夫しました。

空間全体の意匠は、飽きのこない落ち着いたトーンでまとめ、素材は手ざわりや光の反射具合にこだわって選定。静けさの中に温もりが感じられるような、穏やかな質感を意識しました。照明は必要以上に明るさを求めず、やわらかい光が空間を包み込むよう配置し、長く過ごしても疲れない室内環境を実現しています。
バリアフリーへの配慮もさりげなく施されています。段差の解消や引き戸の採用、滑りにくい床材、手がかりのある収納扉など、今だけでなく、将来の安心にもつながる細やかな設計が随所に息づいています。

今回のリフォームは、派手なデザインや装飾こそありませんが、そこには使う人の生活に対して誠実に向き合った“実直な美しさ”があります。動線を整え、空間を整えることは、心を整えることでもあります。住まいが日々の営みを自然に支え、ふとした瞬間に「暮らしが整っている」と感じられる、そんなリフォームを目指しました。
暮らしを見直すタイミングは人それぞれですが、「自分らしく、無理なく暮らせる住まい」へと住まいを整えることは、どの世代にとっても大きな意味を持ちます。この事例が、その一つのヒントとなれば幸いです。